三題噺とは:お題となる3語を作中に登場させることが条件の物書き

今回の三題は次の3つ。
「兄」「銀」「夕暮れ」

それでは本編をどうぞ。

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【将棋】

「……[兄]貴」
「急にどうしたんだ?」
「大学、今日休みだっけ?体調悪そうだけど大丈夫か?」
「課題やってないんじゃ、行っても行かなくても同じことだからな。今日は自主休講」
「うつ病患者みたいな顔してると思ったら課題かよ、課題より出席とるほうが大事だと思うけど」
「どうでもいいだろ俺のことは。それよりお前の方こそ」
「それよりって……まあ兄貴がいいならいいけどさ。ちなみに俺はこないだやった体育祭の振替休日」
「ってことは暇だろ?ちょっと付き合えよ、春からりゅうおうのおしごと!のアニメもやることだし」
そう言って兄は将棋盤を指差した。10年以上も前の話だが僕達兄弟は将棋教室に通っていたことがあり、兄は人気ラノベ"りゅうおうのおしごと"を読んだ影響で将棋熱が再燃したようだ。
「将棋かぁ……別にいいけど、俺じゃ相手にならないんじゃない?」
「いいならさっさと始めようぜ、俺夜バイトだから夕方には出たいし」
「仕方ないな」
「なんだよ、結構やる気あるじゃn…あるのな」


そして2人の勝負は始まった。
パチっパチっ、と駒を指すこぎみの良い音だけが部屋に響く。一度本気になれば対局中の雑談など以ての外。お互い無言のまま、試合は淡々と進んだ。


終盤、僕の手が詰まる。あと少しで兄を詰められそうだが、一手でも間違えれば即逆転負けという場面だ。持ち時間は使い果たしてしまった。あと30秒という限られた時間の中で正解を導かねばならない。
「7四桂………違う。6三角……これも違う」
独り言が完全に口から出てしまっていたが、選択肢を一つ一つ吟味していくしか正解を探す方法はない。
気付けばもう[夕暮れ]時だ。このまま押し切れる手をあと3秒で考えつかなければタイムアップ。
「うし!もうお前の負けだな。もう行くわ。またやろうぜ、将棋」
兄がそう言って席を立とうとする。諦めかけたその刹那、いつの間にか後ろで見ていた父が呟いた。

「……[銀]、8二銀」

その手があった、どうしてもっと早く思い付かなかったんだ。もう15秒あればその手を思い付いた自負はあるが、時間切れ。いやそもそも助言は反則か……などと自身の思考が逡巡する。
ん?待てよ。銀……?

「『ん』がついたから親父の負け」

おあとがよろしいようで。



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お読みいただきありがとうございました!
他の方も同じ三題で書いてくださったので、お時間あればぜひそちらもお読みください。